【そんなことを云われてしまえば、ね】




「やあ、こんなところにいたのかい」
「お前こそ、今は休憩中ではなかったか?」
「まあそうなんだけど、ね」

 グラハムが向かう端末を後ろから覗き込み、ビリーは小さく苦笑する。

「ああ、これか」
「上に提出するレポートだよ。そう面倒なものではないが、溜まると厄介だ」
「確かにね」

 軽い調子で端末を叩くグラハムを横目に、部屋の隅にあるコーヒーポッドから紙コップへと濃い目のコーヒーを注ぎながらビリーは呟いた。

「……君に、見せたいものあるんだ」
「見せたいもの?」
「うん。仕事が終わってからで構わないんだけどね。プレゼントだよ、僕から君への」

 ビリーの言葉にグラハムは振り返り、ビリーもまたグラハムを見やる。

「――それは、期待しても良いということかな?」
「さあ、ご想像にお任せするよ」
「ならば、その期待に胸を躍らせておくとしよう」

 君らしいねと笑い、コーヒーを片手にビリーは一歩踏み出した。
 そのままグラハムの後ろを横切り部屋から出て行くのだと、グラハムはレポートを書き上げる頭の片隅で考えていたのだけれど。

 ふと、グラハムの一歩斜め後ろでビリーが止まった気配がした。
 おや、と思う間もなかった。

「お楽しみに」

 ふいに囁かれた言葉は優しく甘く、グラハムの耳を擽って通り過ぎる。
 グラハムが振り返ったときには、ビリーの背中は扉の前にあり、彼はグラハムにもう一度視線を向けることなく部屋から去っていった。

 今頃きっとビリーは、悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべていることだろう。
 顔に熱が集まっていくのが自分でもわかって、それがまた、悔しくて仕方ない。
 ああくそ。グラハムは思い、そうして唇の端をゆっくりと上げてみせた。