【そして動いちゃったのちに残された人】




 まったく、君という人は。


 漆黒のフラッグが飛び去っていった青い空の彼方を見据えて、ビリーは小さく溜息をついた。


『行くのかい?』
『当然だ』
『やめておいた方がいい。きっと無駄足になる』
『そんなこと、行ってみないことにはわからないだろう?』
『わかっているところを敢えて押し切るのが君だから云っているんだよ』
『カタギリ、私が誰かわかっているのか』
『え?』
『グラハム・エーカー。――対ガンダム調査隊の、グラハム・エーカー中尉だ』


 それで出撃命令もなしに飛び出してしまい、かつそれも結果的に許されてしまうあたりが、まったく彼らしいというかなんというか。
 待ってるこちらの身にもなってほしいとは常々思っているが、しかしこうして自分の思うままに駆けていってしまうのがグラハム・エーカーという男だ。
 それこそがグラハムであり、そうでなければグラハムではない。
 
「難儀な人だよ、君は」

 それでもそんな彼を愛しいと思ってしまうあたり、やはり自分ももう末期なのだろうなぁ、とビリーはひとりごちてもう一度空を仰いだ。