【そしてガンダムと戦ったあと】
「お帰り。どうだったかい、フラッグは?」
「素晴らしい出来だな。お前と教授には感謝の念に堪えない」 「……で?」 ビリーはなにを思ったのか、含みのある笑みでグラハムを見つめていた。 彼がこんなときなにを考えているのか、グラハムにはわからない。 つまるところ、居心地が、悪い。 カスタムしたフラッグの初出撃だ、フラッグについて、ガンダムについて、そして今後について、ビリーと語ることは多いにあるだろう、とは思うのだけれど。 「流石に速さが違うな。次に逢うときにはおそらく対策を練られているだろうが、それでも捉えることができると私は確信している」 「それはよかった」 「そうだ、あのガンダムは水中行動すら可能だった」 「それはまた……本当にどんな構造をしているんだろうね」 「フラッグにも対応させることはできないのか、と訊いたら、どうする?」 「君の質問は命令に等しいからね。『今はもう少し休ませていただきたい』と答えるよ」 ビリーの笑みは変わらない。 なにかを見透かすような、責めるような、それでいてやさしげな瞳。 ガラス越しながら濁りのない漆黒の瞳は、いつもそうやってグラハムを見守っている。 グラハムはひとつ溜息をついた。 二歩踏み出しわずかに頭を傾けると、ビリーの肩に額が当たる。この身長差がときには気に喰わないが、たまにはこんなことがあっても良いだろう。 戦場では得ることのできないビリーの匂いだ。 目を閉じて深く息を吐いたグラハムは、 「……疲れた」 「そう」 ビリーはただそれだけを云って、子どものようにグラハムの頭を撫でた。 |