【私のエンジェル、をグラハムでやってみた】




「わざわざ君が同行する必要はないと思うけど」
 溜息まじりにビリーは呟いた。
 止めても聞く人ではなかったが、まさか本当にここまで来るなんてことも予測していなかった。
「君が苦労して手に入れてくれた情報だ。この目で見させてもらうよ」
 誇らしげにグラハムは笑う。一応はビリーの手柄であるのだが、自分のことのように喜ぶグラハムを見ているとなんだか不思議とビリーも嬉しくなる。
「それに、これはエーカー一族の長きに渡る悲願でもあるのだから」
 虚空を睨み据えたグラハムは、宙を掴むように左手を伸ばす。そうして握り締められた拳を見つめながら、ビリーも小さく微笑んだ。
「グラハム――いや、エーカー家は、何世代も前から計画への介入を画策していたんだね」
 まったく欲深い人間たちだ。彼だけではなく一族郎党がこんなものだというのなら、人間の血というものほど恐ろしいものはないのかもしれない。
 否、もしかしたら彼だけが無駄に濃いのかも知れないけれど。
「その通りだ。だがリアルドがある限り、私たちにはどうすることもできなかった。そんなとき私の前に偶然にも天使が舞い降りた。君のことだよ、ビリー・カタギリ」
 だからどうしてそう歯の浮いたような台詞をしらっと吐けるのか、その神経がビリーには信じられない。
「拾ってくれたことへの恩返しはするよ」
 だがそうだ、ビリーでさえありえないと思えること、というよりも、予測の範囲を軽く超えた行動を平然とやってのける彼が、今のビリーの主である。
「しかしよもや本体の場所をつきとめようとは」
「時間がかかってすまなかったね」
 所詮は紛い物だ。けれどなすべきことがあり、そのために今ここにいる。真意など話せるはずもないが、それでもグラハムためだということは嘘ではなかった。
「ふん」
 グラハムは笑う。いつだって楽しげに誇らしげに、彼は笑う。ビリーを見るときはなおさらだ。
「――ビリー。君はまさしく私のエンジェルだよ」
 そうしてグラハムは囁くのだ。ビリーの好きだと思うその瞳を向けて、その顔を綻ばせて、やわらかな声音でもって。