細い 




「君は一体、なにを食べていたらそんな身体になる」
「……は?」
 唐突な台詞はいつものことだけど、今日はまた内容も突飛で僕は文字通り目を丸くしてグラハムを見返すことしかできなかった。
 なにを食べているかって、そんなのは見ていればわかるだろうに。
「ドーナツとか?」
「そういった話ではない」
 昼食がてらに齧っていたそれを左手でグラハムに向けて傾けてみせると、彼はなぜか不機嫌そうに溜息をついた。急にご機嫌斜めになられても困るのだが、それを指摘するとさらに機嫌が急降下するのは目に見えているから僕はあえて口にはしないで微笑んでみせた。
「まったく、こんな薄い身体でどうして連日の徹夜にも平気な顔をして臨めるというのか」
 一日や二日程度の徹夜は僕にとってはそれほど珍しいことではないのだけれど、どうやら彼にはそれが不満らしい。睡眠時間が少なくても死にはしないのだからと云っても、どうにも釈然としない返事をされたのも一度や二度ではなかった。
「慣れだってば」
「慣れているといっても――」
「……っ、どこを触って……っ!」
 グラハムの両手が僕の腹と背中に添えられて、軽く上下される。慣れない双方向からの感触に鳥肌が立った。
「こんなに薄い身体のどこにそんな体力が残っているのか、心底不思議なものだな」
「あのね、こう見えて僕にだってそれなりの体力はあるんだよ」
「……ほう? 一時間や二時間で足腰が立たなくなる君のどこにそんな体力が残っていると?」
「あ、あれは君が!」
 ああもう、真っ昼間にこんなところでなにを云いだすんだこの男は。
 顔に熱が集まるのを感じる。それを見てグラハムは意地悪く笑う。こうなるのをわかっていての確信犯だ。なんという男だろう。無駄に自信家で、けれどその分確かに実力もあって、我儘で、たまに意地が悪くて、そうして。
「悔しければ、もう少し太ってみせろ」
 グラハムの頭が下がる。視線を落とせば胸元にグラハムの頭が見える。グラハムの額が僕の心臓のあたりに触れて、
「無茶を云っている自覚はある。が、君が無理をしているところを見るのは忍びない」
 つまりは無理をするな心配をかけさせるな、と彼は云いたいのだろうけれど。
「……それは僕の台詞だよ、グラハム」
 溜息交じりの僕の言葉に、グラハムが笑ったのが身体の揺れでわかる。
「熟知している」
「君は嘘つきだね」
 知ってたけど。
 そうしてもう一度笑った君は、おもむろに顔を上げて僕の唇を奪っていった。