スキスキ大キライ 




「僕は君が嫌いだよ」
 そう云って、彼はわざとらしいまでににっこりと笑って見せた。
「なん、だと……?」
 信じられない言葉に、彼の肩に置いた手が震えた。
 嘘だ、嘘でないはずがない。
 彼がこんなときに云う冗談は他愛もないながら性質の悪いものばかりだから、今のこれもきっとそのひとつに違いない。
「だから。――僕は、君が、嫌いだ」
 今度は笑みを消して、真剣な表情で彼ははっきりとそう云った。
 身体を衝撃が走る。なんという、ことだろう。
 愛し合っていると思っていた。好き合っていると思っていた。
 ちょっとした悪戯もからかいも、すべて愛あるがゆえだと思っていたのに。
 ……もしかしたら、それがいけなかったのだろうか。
 誰も見ていないからと云って、部屋の片隅の棚に隠れるようにしてキスをしてみたり。埃臭い小部屋のちゃちなカギひとつかけただけで、隣室に仲間たちがいる状態で押し倒してみたり。誰が見ているとも知れない中で、それとなく彼の身体のあらぬところに触れてみたり。
 どれもこれも、狼狽し恥ずかしがる彼の顔が可愛らしくてたまらずにやってしまったことだ。そこに愛はある。
 彼の身体に負担をかけてしまったことは謝るが、しかし彼が愛しくてした行為自体を謝罪するつもりはない。謝罪してしまえば、愛ゆえの私の行為そのものを否定することになる。それは断じて許し難い。
 ならばどうすればいい? どうすれば、彼にこの気持ちを伝えられるだろう?
 こちらから顔を背けてしまった彼の表情は、もう私にはわからなかった。






 いつだってこっちが振り回されてばかりで割に合わないよ。

 そのとき、心の中でこっそりとビリーが舌を出していたことなど、もちろんグラハムは知る由もない。