「君のこと、好きになってもいいかな？」
「は？」
　それは、わざわざ本人に伺いを立てるようなことだろか？　突然の技術顧問の問いに、ジョシュアは疑問符を浮かべながら内心で首を傾げた。
　好意を示そうとしてくれているらしいが、これではまるで、ジョシュアが彼のことを嫌いだと公言でもしていたかのようではないか。
「それは別に構いませんが。……なぜわざわざ俺に告げようと？」
「なぜって、君はグラハムのことが嫌いだろう？」
「は？」
　今度こそあからさまに眉を寄せたジョシュアに、しかしビリー・カタギリの表情は真剣そのものだった。
　どうしてグラハムを嫌うことが、ビリーを嫌う理由になるというのか。まさか、ジョシュアがグラハムを嫌いだからビリーをも嫌いになるとでも、
「グラハムを嫌いだから、僕のことも嫌いなんじゃないかと」
　――思っていたらしい。
　なんだそれは、とジョシュアは思わず頭を抱えかけた。
　無駄に頭はいいくせに、どうしてこんな妙なところで抜けているのだろう、この天才技術者は。
「俺は確かにグラハム・エーカーが嫌いです。けれどそれが、あなたを嫌いになる理由にはならない」
「……そうなんだ？」
「そうです」
　なぜか力強く頷いてみせると、彼はほっとしたように肩の力を抜いた。
　もしやこれでも少しは緊張していたのだろうか。若干違う方向にジョシュアが驚いていると、ビリーはなにを思ったのかジョシュアの右手を掴み上げると両手できゅっと握りこんできた。
「なら改めて云わせてもらうよ」
「……はあ」
　なにを改める必要があるのだろう。
　しょうもない衝撃を受け続けていたジョシュアは、すっかり忘れていたのだ。
　そもそも彼がどうして自分の前にいるのかということを。
「君が好きだよ、ジョシュア」
　だから彼が頬をわずかに赤く染めながらそう微笑んだときの衝撃といったら、言葉では表しようがない。
　どうしてこんな、顔はいいはずなのに不思議なセンスをしていて、温和でまともそうに見えながら天才であるがゆえなのか稀に理解不能な妙な言動をするようなしかも年上の男を可愛らしいと思うことがあるのだろう。
　握られた手に、ぐっと近づいた顔に、ときめきを覚えるなんてどうかしている。
　なのにそんな自分を制御し切れないことも薄々ながら自覚していたジョシュアは、真っ直ぐに見据えてくる黒の瞳に魅入られたようにただただ硬直することしかできなかった。