恋人はサンタクロース




「今日はクリスマスだったっけ」
 ふと思いついたことを零したのは、そのときがちょうどレポートの区切りの良いところだったからだ。ディスプレイから目を離しして一度目を閉じてみると、疲れている感覚にまぶたが痺れる。
 そこへタイミング良く淹れたてのコーヒーを差し出されるのは、ある意味では日常茶飯事というものだろうか。
 ありがとうとカップを受け取りながら、ビリーは傍らに立つ金の髪を見上げ、
「君ならサンタクロースになにを望むんだい?」
 しかしビリーの言葉の意図をとりかねたのか、コーヒーを差し出したままの格好でグラハムはきょとんと首を傾げた。
 返事がすぐにこないのは、ビリーの次の言葉を待っているためだろうか。
 その妙に素直な様に苦笑して、ビリーは椅子を反転させて真正面からグラハムを見据える。グラハムの目が、すっと細められる。
「平穏な日々? それとも、刺激的な毎日を?」
 これは純粋な疑問だった。真っ直ぐで馬鹿正直で曲がったことが大嫌いで、そのくせ怠惰で変わり映えのしない日常を厭う傾向にある彼は、聖なる夜に一体なにを望もうというのか。
「私の望むもの……」
 彼のことだから、もしかしたら生真面目に応えてくるのかもしれない。第一にサンタクロースを否定することも考えられなくはない。それとも、望みなど与えられるものではなく自分で得るものだとでも答えるだろうか。
「そうだな、――お前と迎える明日を」
 だからまさか、そんな歯の浮くような台詞を真面目くさった顔で真正面から云われるだなんて考えてすらいなかったビリーは、その瞳の強さに唖然となり、次には眼鏡ごと目を覆って軽く俯いてしまっていた。
 云ってしまえば、撃沈したのだ。
「……」
 グラハムは今、不思議そうな顔で自分を見ていることだろう。それとももしかしたら、にやりと人の悪い笑みで見下ろしているのかもしれない。
 どちらにしろグラハムはやはりグラハムで、そんな彼に惹かれてやまないのが自分であるのだとビリーは確かに自覚している。
 きっとこれを、メロメロになるというんだろう。
 いっそ立ち上がりがてらキスでも奪ってみようかなどと意地の悪いことを考えながら、ビリーはゆっくりと顔を上げる。
 その向こうに見えるのは、月にも太陽にも似た鮮やかな光。